創業計画書は「返済できること」を伝える書類
クリエイターとして独立するとき、機材の購入費や案件が途切れたときの運転資金をどう確保するかは大きな課題です。日本政策金融公庫の融資はその有力な選択肢ですが、融資審査で最も重視されるのは、売上がどれだけ上がるかではなく、「貸したお金を返せるかどうか」です。
既に事業を営んでいるなら決算書で返済能力を判断できますが、これから独立する方には決算書がありません。その代わりとなるのが創業計画書です。つまり、創業計画書は「自分にはお金を返す力がある」と示すための書類だと考えてください。
自己資金が多くても、返済能力が低いと判断されれば希望額は通りません。逆に自己資金が少なくても、手堅い事業計画で生存できることを示せれば融資は受けられます。
創業計画書の9項目と記入のポイント
日本政策金融公庫の創業計画書はA4サイズ1枚の書式で、公庫のホームページからダウンロードできます。各項目で審査担当者が見ているポイントは次のとおりです。
| 項目 | 記入のポイント | よくある失敗 |
|---|---|---|
| 1. 創業の動機 | なぜこのタイミングで独立するか、準備してきたことを具体的に | 「いつかフリーランスになりたかった」だけで終わる |
| 2. 経営者の略歴 | 勤務年数・担当案件の種類・実績(ポートフォリオ)・受賞歴を書く | 勤務先と年数だけで内容が薄い |
| 3. 取扱商品・サービス | デザイン・イラスト・映像制作など、メニューごとの単価と売上割合を具体的に | 「なんでもやります」で単価も書いていない |
| 4. 取引先・取引関係 | 制作会社・広告代理店・直請けクライアントなど、受注先を記入 | 空欄のまま提出 |
| 5. 従業員 | 外注スタッフの活用予定、アシスタントの採用時期 | 独立直後から正社員を雇う計画で人件費が膨らむ |
| 6. 借入の状況 | 住宅ローン・車のローン・奨学金など正直に記入 | 隠してもバレるので正直に書く |
| 7. 必要な資金と調達方法 | PC・カメラ等の機材費・ソフトウェア・運転資金を明細つきで | 運転資金を少なく見積もりすぎる |
| 8. 事業の見通し | 案件単価×月間受注件数で根拠を示す。繁忙月と閑散月の平均で計算する | 売上を多めに書いて現実味がなくなる |
| 9. 自由記述欄 | 書ききれなかった強みや補足を追記(受賞歴、継続取引の見込みなど) | 空欄のまま出してしまう |
A4の1枚だけでは書ききれないことが多いので、別紙で追加の事業計画書を作成すると説得力が上がります。ポートフォリオや過去の制作実績をまとめた資料を添付するのも有効です。
事業の見通しは「少なめの売上」で作る
審査を通すために売上を高く書きたくなりますが、実は逆です。「売上は少なめ、経費は多め」で計画書を作り、それでも返済が可能であることを示す方が信頼されます。
クリエイターの場合、売上の波が大きいのが特徴です。繁忙月と閑散月の差が激しいため、年間売上を12ヶ月で割った平均値を使って計算するのが現実的です。
月間売上(平均) = 平均案件単価 × 月間受注件数
たとえば、グラフィックデザインを中心に、案件単価15万円の仕事を月3件、単価5万円の小規模案件を月2件受注する想定なら、月間売上は約55万円になります。制作会社からの継続案件がある、独立前のクライアントから発注の見込みがあるなど、受注の根拠を具体的に書くことがポイントです。
ここで大事なのは「経費の分配率」の考え方です。クリエイターの場合、外注を使わなければ材料費にあたる原価がほぼかからないため、売上がそのまま粗利益になります。粗利益の中で各経費の割合をコントロールすれば、売上が少なくても生存し続けられます。
個人事業主の場合
| 項目 | 金額(月額) | 粗利益に占める割合 |
|---|---|---|
| 月間売上(≒粗利益) | 55万円 | 100% |
| 家賃・水道光熱費・減価償却費 | 8.3万円 | 15% |
| ソフトウェア・通信費 | 2.8万円 | 5% |
| その他経費(交通費・書籍・研修費等) | 5.5万円 | 10% |
| 所得 | 38.4万円 | 70% |
個人事業主の場合、オーナーの「給与」は経費になりません。売上から経費を差し引いた所得が、そのまま自分の手取り(生活費の原資)になります。所得38.4万円のうち、減価償却費(たとえば3万円)は現金の支出をともなわないので、実際に手元に残るお金は約41.4万円です。ここから毎月の返済額(たとえば5万円)を引いても約36.4万円が残り、生活費を賄える計算になります。
ただし、これは平均値での計算です。閑散月に売上が30万円まで落ちるケースを想定し、そのときでも返済と生活費がまかなえることを併記しておくと、審査担当者の安心材料になります。
法人の場合は、オーナーの給与(役員報酬)を経費として計上できるため計算の仕方が変わりますが、独立時からいきなり法人を設立することはおすすめしていません。まずは個人事業主としてスタートし、事業が軌道に乗ってから法人化(法人なり)を検討するのが一般的です。どのくらいの所得水準になったら法人化を検討すべきかについては、別途ご相談ください。
配偶者に収入がある、副業として続けていた期間の貯蓄があるなど、万が一の補てん手段があればさらに安心材料になります。こうした情報も面談で聞かれるので、事前に整理しておきましょう。
2025年以降の制度変更で知っておくべきこと
日本政策金融公庫の創業融資はここ数年で制度が変わっています。古い情報のまま準備すると、計画書の内容がズレてしまうので注意してください。
- 旧「新創業融資制度」は2024年に廃止され、「新規開業・スタートアップ支援資金」に統合された
- 自己資金の要件(以前は融資額の10分の1以上)は撤廃された。ただし審査では引き続き自己資金の額が評価される
- 原則として無担保・無保証人で利用できる
- 金利は申込時期によって変わるため、最新の金利は公庫の金利情報ページで確認する(2026年1月時点では特別利率Aが年2.70〜4.30%程度)
- 女性、35歳未満または55歳以上の方は「女性・若者/シニア起業家資金」の対象で、優遇金利が適用される
自己資金の要件が撤廃されたとはいえ、融資希望額の30%程度は自己資金として用意しておくのが現実的な目安です。通帳で計画的に貯めてきたことが確認できると、審査担当者への印象が良くなります。
当事務所のサポート
創業計画書は数字の根拠と整合性がすべてです。売上予測、経費の配分、返済計画のバランスが取れているかを第三者の目でチェックすることで、融資の成功率は上がります。
当事務所では、クリエイターの独立に必要な創業計画書の作成支援や、公庫との面談に向けたアドバイスを行っています。「案件単価の設定が妥当かわからない」「売上の波がある中で返済計画をどう組めばいいか」という方は、お気軽にご相談ください。
